セクション1 「社会人に必要な数のセンス」 コース001111

セクション1
「損益分岐点という概念を理解するための数のセンス」

【問題】

ある工場である商品を作るために、作業費、材料費、作業電力料など直接的なコストが、1個あたり5000円かかる。また、その商品を1つでも作る体制を維持するために、生産個数とは関係なく月に140万円のコストが常にかかる。コストはこの2種類だけである。一方、生産した商品は、営業部が確実に1個7000円で引き取ってくれる。売れ残りや返品はないし、製造の失敗もない。この時、月にいくつ以上営業部からこの商品の引き合いがあれば、工場として黒字が出せるか。引き合いに見合う製造能力は十分にあるものとする。

(1)200個 (2)280個 (3)700個

●(3)を選んだ人:確信を持った計算で700個とわかるなら、損益分岐点の基本は理解できている。ただしより複雑な場合に備え、発展解説を読んでほしい。

●それ以外を選んだ人:損益分岐点の基本を理解するため、基本解説を読んでほしい。


【基本解説】

損益分岐点というのは、ビジネスにおいて固定費と変動費という2種類のコスト要因がある場合に、常に考えなければならない問題である。固定費というのは今回の 140万円」のように、少しでもその事業を行う限り必ず発生するコストのこと。 たとえば生産のラインを確保したり、設計の意図を理解しているリーダーを置いたりするための費用である。結果的にその月の受注(生産)がゼロでも、この費用は支払わなければならない。

一方、変動費というのは今回の「1個あたり5000円」のように、実際に作るものに対して発生するコスト。実際には製造する商品の個数に比例するとは限らないのだが、この問題では簡単のために「1個あたり」という形の要因のみにした。そして 収入はもちろん、1個あたり7000円である。

受注(生産)がゼロの場合、前述したとおり、140万円の固定費がかかる。変動費の方は、あくまで1個生産していくら、ということなので、この場合はかからない。 そして収入ももちろんゼロである。差し引き140万円の赤字だ。

受注(生産)が2000個だったらどうだろう。140万円の固定費は同じ。しかし今回は変動費がかかる。1個作るのに5000円だから、2000個作るのに5000円×2000で1000万円だ。合計でコストは1140万円。一方、収入の方は7000円×2000で1400万円。差し引きで260万円の黒字となる。「1個あたり」の要因だけで考えれば2000円ずつの利益があるのだから、受注(生産)がたくさんあれば、固定費をカバーした上で黒字が出るわけだ。しかし受注(生産)が少ないと、「1個あたり」では利益があっても、全体としては固定費に足を引っ張られて黒字にならない。その境目の受注(生産)数が損益分岐点である。

実際に損益分岐点を求めるには、受注(生産)数をxなどと置いて方程式を解かなければならない。中学校で習う一次方程式というものである。受注(生産)数が0の場合と2000の場合をすでに考えた。それを一般化すると、受注(生産)数がxの時、コストは140万+5000×x、そして売り上げは7000×xである。140万+5000×x > 7000×xとなるようなxの場合は赤字、逆に140万+5000×x < 7000×xとなるようなxの場合は黒字というわけだ。

その境目というのは、次の一次方程式を満たすxのことである。

140万+5000×x = 7000×x

左辺の5000×xを右辺に移項する(つまり両辺から5000×xを引く)と、140万 = 2000×x

両辺を2000で割ると、結局x=700が得られる。

これは次のように考えてもよい。

固定費を除外すれば「1個あたり」7000円から5000円を引いて2000円 の利益が出る。つまり受注(生産)が1個あれば、固定費140万円のうち、2000円分はカバーできるわけだ。2個あれば4000円分カバーできる。3個なら6000円分だ。ならばいくつあれば140万円全体をカバーできるだろうか。それは140万÷2000、つまり700である。この割り算が、上記方程式を解く最後の計算と同じであるのは、偶然というわけではない。


【発展解説】

変動費が「1個あたり5000円」、つまり受注(生産)数に比例するなら、結局、一次方程式で損益分岐点を求めることができた。実際のビジネスでは、変動費はもっと複雑である。

直接の材料費は、大量購入に伴う値引きといったことを無視すれば、確かに受注(生産)数に比例するといえるだろう。一方で工員人件費や機械使用料な

どは、受注(生産)数に比例するとまではいかないが、やはり数が増えればそれなりに増えていく、という性質を持つ。これらに関しては、受注(生産)数の平方根にほぼ比例するとか、受注(生産)数の対数にほぼ比例する、といったモデルが考えられるだろう。

どんな形になるにせよ、トータルのコストが受注(生産)数xの関数としてf(x)などと表わされ、またトータルの収入が受注(生産)数xの関数としてg(x)などと表わされるなら、

f(x)=g(x)

を満たすxが損益分岐点になる。正確にいうなら、xがそれより小さいならf(x)>g(x)、xがそれより大きいならf(x)<g(x)、という条件つきでだが。

今回の問題の場合、

f(x)=140万+5000×x、g(x)=7000×x

だったわけだ。

一方、工場ならばともかく、会社全体としての事業を考えるなら、毎月の固定費のほかに、初期固定費とでもいうべきものが存在する。ある商品を作って売るということなら、その商品の開発費やデザイン費のことだ。これはビジネスを開始するにあたって最初に必要だが、開始してしまえば毎月必要というわけではない。

たとえば会社全体として、ある商品の初期固定費が3000万円、月々の固定費が200万円、1個あたりのコストが600円、売価が1000円だとしよう。販売が見込める分だけ製造するので、売れ残る心配はないものとする。この場合は、毎月の製造(販売)数xだけを考えても意味がなく、その商品を何か月間売り続けけられるかも、全体として事業の収支を考える上で重要だ。その月数をtとするなら、次のような式が成り立つ。

全体のコスト:3000万+(200万+600×x)×t

全体の売り上げ:1000×x×t

月々の損益分岐点は5000個なので、販売数がそれを下回るようでは論外だが、それを上回ったとしても、tが短い、つまり商品の陳腐化が早い場合は、やはりトータルで利益がでない。仮に月々の販売数が8000だとすると、xにそれを代入することで、コストは3000万+680万×t、売り上げは800万×tとなる。

両者を等しいと置くとt=25.つまり2年間以上事業が継続できて、初めてトータルで黒字ということになる。

ちなみに月々の販売数が6000だとして同じような計算をすると、tの条件は一気に75(つまり6年間以上)にまで高まってしまう。販売数が8000から6000に落ちると、初期費用の清算期間は3倍にもなる。このシビアな現実がわからないと、事業企画というものは上手くいかないのである。



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