第4話

旧式ジェット戦闘機の夜間飛行をテーマとしたバトルジェットは、巨大体育館のような建物の中をぐるぐると回る屋内型ローラーコースターだった。本線の至るところに特大の映像装置が配置され、画面に投影される敵機やミサイル、弾丸と交差しながら車体は移動していく。その効果により、実際のスピードはそれほど出ていないのだが、ただならぬスリルを味合うことができる。

ほんの数枚だが、会社は毎年、従業員用の無料パスポート券を支給してくれた。それを使い、私もこれまでに何度かジェットに乗車した。その見事な演出に、ふだんは空中戦など全く関心がない私ですら、スリルを楽しんだ。その人気の高さは、バトル遊園が一年で一番混雑するお盆を挟んでの三週間、屋外の待ち列が三時間を超えることで証明されている。

ケーキ屋さんがクリスマスの日、チョコレート屋さんがバレンタインの日に、年間売上のうちの何割も稼ぐという。バトル遊園でも、夏休みのピークという特定の時期に、バトルジェットのライド券が多数さばけることに依存しているわけだ。A子さんの労災は、この一番の稼ぎ時に発生したのである。

お客様の前では原則、ユニフォームの着用が義務づけられていた。そのため、私服の課長と私は裏の経路から車庫へ入った。課長は昨日何度も出入りしたようで、バックヤードの配置、導線を理解していた。

全ジェットを収納するための車庫はとても広かった。下にもぐりこむ恰好で車体を点検・修繕するためのメンテナンスピットのエリアも含めての面積だから、当然である。

高い天井には大きな照明灯がたくさん吊り下げられていた。明るいには違いなかったが、照射体に奇妙なコントラストができてしまう、冷たい光線だった。太陽から遠く離れた木星か土星の衛星に降り立ちながらも強い太陽光線を浴びでもしたらこうなるのだろうか?・・・ そんな気までした。

建物の内部は、大きくはショーゾーンと車庫の二つに分かれ、仕切り壁で隔てられていた。だから、ショーゾーン側から車庫内を、車庫側からショーゾーンを見ることは、ほぼできない。なぜ「ほぼ」で、完全ではないかと言えば、車庫とショーゾーンの間でジェットを出し入れする場所が、ジェットの進行方向の前方と後方に一つずつあるためだ。それらは洞窟のようにぽっかりと口を開けている。

「マニュアルのこと訊いてみる前に、事故の場所、見てみようか・・・」

課長は私を引き連れ、広い車庫の中を、A子さんの被災地点へと向かった。被災地点は、ショーゾーンから車庫へジェットを引き込む口の側の、車庫内にある切り替えポイントのそばだった。

ショーゾーンの本線からは、ジェットの引き込み口を抜けて車庫へと、レールが続いていた。レールは二本の太い金属のパイプだった。パイプは折りたたみテーブルほどの幅の鉄板の両端に付いていた。車庫内では、鉄板が、高さが徐々に低くなっていく支柱によって、床のコンクリートに固定されていた。つまり、レールといっても、路面電車のように地面を這うレールではない。浮かせる構造となっている。ジェットの車体が、上側・下側・外側の三方向から三つの車輪でパイプを挟み込む形となっていて、下側の車輪の直径を上回る余裕が必要なためだ。この仕掛けにより、上下左右どちらの方向へ振り回されても車体はレールから外れない。これによって、ローラーコースターの脱線防止が担保されているようだった。

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