第24話

課長と私が到着すると、マネジャーがチーフへ指示し、内線で一人目をテーブルに呼んだ。まもなく、アクセスドアが開き、女性が入ってきた。チーフに紹介をされた後、彼女はイスに座った。

彼女は、『トンネル出口係』だった。

とはいえ、押し出し式、ところてん式のローテーション。彼女にしてみれば、或る一つのポジションだけで長時間過ごしたわけではない。どんどん次のポジションへと移っていく。あくまで、「労災時点でそのポジションに就いていたであろう」と推定された人間でしかない。

だが、私は関係者の実名を隠すことを、この話の冒頭に宣言した。そのため、これから登場するポジションに就いていたであろう人たちは皆、『何々係』とだけ述べる。

ちなみに、『トンネル出口係』の彼女も、A子さん同様パートタイマー。大学生。夏休みになってから雇用。バトルジェットのみならずバトル遊園で働くのも初めてで、一ヶ月ほど経っている。

「ローテーションの順番からいくと、『トンネル出口係』に就く前、プラットホームの『待ち列整理係』に就いていたはずですが・・・」
まず、私はそこから確認した。

「はい。そうです」

「『待ち列整理係』に就いていた時、何か特別なこと、ありましたか?」

「いいえ。何も起きませんでした。待ち列は順調に流れていましたので。その様子を眺めているだけで済みました」

「では、『トンネル出口係』に就いてからは?」

「就いてから、たぶん2、3分でしょうか・・・ プラットホームの『待ち列整理係』から、カットの依頼がありました」

「カット?」課長が質問をしてきた。

「課長。ほら、カット・アンド・ゴーの・・・」私が代わって答えかけた。

「あ、そのカットね。お客さんをプラットホームの手前で止めたというわけだね。失礼。続けて下さい」

「でも、『トンネル出口係』の立場からしてみると、カット自体は特別な事というわけではありません。プラットホームの混雑度に応じて、たびたび依頼がありますので」チーフが補足説明をした。

「つまり、『待ち列整理係』からのカット依頼が、何の理由で発生したのか、その都度知らされるわけじゃない、ということだよね?」マネージャーがチーフと彼女へ確認した。

「はい」チーフと彼女は同時に答えた。

「では、今回の場合も、カットの理由は、知らなかったのですね?」私は確認した。

「はい。でも、今にしてみれば、たぶん、あの時のカットが事故のあたりだ、とは思えますが・・・」

「どうしてそう思えるのですか?」

「ゴーの合図をくれるまで、ふだんよりも長い時間、待たされた気がするからです」

「長い時間というと、具体的にはどのぐらいでしょうか?」

「そうですねえ・・・」と言いながらも彼女は腕時計へ視線を落とし、しばらく沈黙した。実際の動作を想像しながら秒針を見て、時間を測ってみたのだろう。

「うーん、ふだんのカット時間が、長くてもせいぜい20秒から30秒ぐらいだから、たぶん2分近くでしょうか・・・」彼女は推測を述べた。

「ゴーの合図が来るまで、プラットホームの上でどんな動きがあったのか、見えましたか?」

「いいえ。すでにプラットホームへ流してあったお客様の混雑に遮られて、他の係の動きまでは・・・」

「プラットホームの上は、屋外の待ち列以上の混雑度になりますからねえ。こう言っている今も、そこのアクセスドアから覗いてみれば、実感することができますけどね、あ、いや・・・」とマネージャーは口を挟んでからすぐ首をかしげた。

「チーフ。今、気がついたんだが・・・」そしてマネージャーはチーフへ話し始めた。

「トンネル出口をカットしている以上、プラットホームへのお客様の流入が止まるよね。つまり、プラットホームの待ち列は徐々にすいていくよね。通常ならば、次々ジェットに乗車していくからさ。そうしてプラットホームがすけば、他の係の動きも見えてくるから・・・」

「いや、マネージャー。符合しますよ、彼女の話。カットの間、腰抜けジェットに続けて不具合ジェットが発生し、それにA子さんが轢かれたわけですから・・・ 乗車も滞り、待ち列は進まず、プラットホームが空くことはなかったのですよ」チーフは断言した。

「そう言えば、あの時は、ゴーの合図をもらうまで、待ち列はほとんど前へ進まなかったと思います」チーフの説明を彼女が裏付けた。

「なるほど」マネージャーは納得した。

「では、『トンネル出口係』に就いている間は、A子さんの事故のことは知らなかった。しかし、ふだんよりも長く待たされた・・・ということですね?」と私は確認した。

「はい。その通りです」

「で、ローテーション上、次は?」

「休憩でした」

「その通りにしましたか?」

「はい」

「A子さんの事故が発生したことは、あなたを押し出しにやって来た人。つまり、ローテーションの上で一つ前のポジションについていたスタッフから情報を得たのでしょうか? 名前はP君と聞いていますが」

「いいえ、その時には・・・ ただ、今から思えば、P君、とても慌しい様子で移って来た気はしますけれど」

「そりゃあ、事故を目撃すれば、誰だって焦って慌しくなるよなあ・・・」課長がつぶやいた。

「いや、事故の瞬間は、誰も目撃していませんよ。そうだろ? チーフ」マネージャーが言った。

「ええ。念のため再度確認して廻りましたが、やはり目撃者は一人もいません」チーフは答えた。

「分かってる、分かっている。今、俺が言ったのは、事故の瞬間のことではなく、被災直後の姿のことだよ」課長は弁明した。

「課長。P君が被災直後を見たということも、未だ確認してませんよ」私は課長へ釘をさした。

「あ、そうだったね。ごめん。で、そのP君は、今日、15時半に出勤予定だっけ?」

「ええ。遅刻や欠勤の事前連絡はありませんし、予定通り出勤すると思います。彼女のほうは、もうローテへ戻していいですか?」

チーフは課長に応じた後、私へ確認してきた。私はトンネル出口係の彼女にお礼を言い、インタビューの二人目を呼んでくれるよう、チーフへお願いした。