第12話

ちょうど、プラットホーム周辺の全ポジションについてマネージャーが説明し終えた時、アクセスドアから二人の男性が入ってきた。ネームプレートの色から、一人が正社員で、もう一人は臨時従業員であることが分かった。ちなみに、今回の被災者であるA子さんはパートタイマーだ。

臨時従業員とパートタイマー。

世間では「アルバイト」の一言で括ってしまう人もいるが、両者は似てて非なる雇用形態だ。

前者は、雇用期間をあらかじめ定めた従業員。この期間とは、たとえば半年とか一年。いわゆる正社員がいわゆる終身雇用されるのに対し、こうした期間は一時的であり、臨時でもある。それゆえ「臨時(の)従業員」と呼ぶわけだ。

後者は、一般従業員に比べて勤務時間が短い従業員。ここでいう一般従業員とは、いわゆる正社員をさすが、たとえば正社員に適用される就業規則において一日の勤務時間が8時間と取り決めてある場合、5時間とか4時間しか働かない人がパートタイマーに該当することになる。

「おっ、チーフも一緒に来たのかい?」

二人の姿を見たマネージャーは、正社員のネームプレートをつけた男性へ声を掛けた。

「ええ。事故の時間帯、当番チーフだったので・・・」上司であるマネージャーの前に出たせいか、私と同じぐらいの年齢のチーフは控えめな態度で応えた。

「そうだったね。じゃ、二人まとめて、インタビューしてもらえますか?」チーフから課長へ視線を移しながらマネージャーは言った。

「でも、運営中にチーフの時間を頂いても、大丈夫なの?」課長はそれなりに気をつかった。

「大丈夫ですよ。私と同じように無線機を携帯してますので。ましてや、ここはアクセスドアのすぐ横ですし、内線電話もありますし・・・ 異常事態が発生しない限り、時間は気にすることはありません」

「あ、そう・・・」

「でも、臨職の彼のほうは、さっきも言った『ポジのローテ』に入らなければならないので、手短かに済ませて下さい」

マネージャーは、臨時従業員のことを、なぜか『臨職』と呼んでいた。現場の慣行のようである。

「じゃあ、臨職の彼氏からインタビューさせてもらうね。えーと、えーと・・・」

課長は言葉を詰まらせて、目線を私のほうへ寄せた。それを受けて私はインタビューを開始した。

「昨日、A子さんの教育係をされていたと聞いていますが・・・」

「はい。僕とマンツーマンでしていました」

折りたたみイスに腰を掛けた臨職の彼は、課長のように、つまりくたびれてしまったカバさんのように背もたれへ身体を預けることなく背筋をピンと伸ばし、質問者の私の目をしっかりと見て、はっきりした声で答えた。今まで遭って来た現場の人間の中で最も信頼できる人、と感じた。それで落ち着きを得た私は、言葉を絞り込みながら、ゆっくりとした口調で質問を続けた。

「事故の瞬間は、目撃しましたか?」

「いいえ。目撃していません」

「でも、A子さんの教育係をしていたのでは?」

「はい。でも、事故の前に、いったん別れてしまいました」

「どこで別れたのですか?」

「ここで別れました」

臨職の彼は、今私たちが利用しているテーブルを目で示した。

「別れるまで、ここで何をしていたのですか?」

「バトルジェットについての新人教育です」

「具体的には?」

「彼女は昨日午後一時出勤だったのですが、初日の一時間目、つまり一単元目で、バトルジェットの演出コンセプトを説明したところでした」

「それは、所定の教育プログラムですか?」

「はい。『教育チェックリスト』に基づく、正規のプログラムです」

チーフが気を回し、事務用デスクに置いてあったファイルから『教育チェックリスト』なるものを取り外し、テーブルに置いた。

チェックリストは、A4縦一枚の紙に教育すべき項目を箇条書きした簡素な文書だったが、第三者にも判読しやすく作られていた。初日一時間目の第一単元は、『演出コンセプトの説明』と記載されていた。そして、第二単元は、『ジェット運行の全体的仕組みの説明』と記載されていた。

「A子さんの事故は第一単元と第二単元の間に起きたということですか?」

「はい。そうなります」

「ということは、A子さんは、ジェットの車体の止め方を教わっていなかったわけですね?」

「はい。止め方はまだ教えていませんでした」

やはりそうか! 午前中、保全課員が演じてくれた車体の止め方。マニュアルにも分かりやすく掲載されている車体の止め方。A子さんは知らなかったのだ。それで、前に立ちはだかって止めるという自己流の方法をしてしまい、被災してしまったのである。

「あー、そうだとすると、君がA子さんと別れてしまったのは、教育係としては・・・」

課長が、責任追及するような言い回しの質問を始めた。いくら口調がソフトな課長でも、これはまずい!と私は思った。現段階では、誰かの責任を追求している場合ではない。経緯や原因を掴むことに徹すべきだ。たとえ事故の瞬間を目撃していなくとも、A子さんに最も近かったはずの教育係を萎縮させてしまっては、元も子もない。

ところが、彼は毅然として答えた。

「おっしゃる通り、教育係の僕は本来離れるべきではありませんでした。すみません・・・ 責任取ります・・・ ただ、これだけは伝えさせて下さい」そう言った彼は、A子さんから離れる際に、テーブルで待機しているよう、彼女へハッキリと命じたことを強調した。

「やっぱり原因はA子さんにあるのか・・・」課長は腕組みをしながら言った。

「そうでしょうね」ずっと口を挟まずにインタビューを聴いていたマネージャーが言った。

「では、彼、ローテーションに入ってもらっていいですね? 残った質問があれば私がお預かりしますので・・・」チーフは私を見ながら言った。

教育係を責めるような質問を課長がしてしまった後だけに私は遠慮してしまい、引き止めなかった。

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