第11話

まだ教育係は到着しない。

そこでマネージャーはテーブルにマニュアルを広げ、あとで案内してくれる予定となったポジションについて解説してくれた。全体の平面図とポジション配置図。要所の写真やイラスト。これらに基づく解説のため、とても分かりやすかった。

プラットホーム周辺のポジションは、合計7つ。

まずは、トンネル出口係である。

屋外では路面に特設ポールを立ててロープを張るかたちの待ち列。が、屋内に入ってからは、狭くて長いトンネルを模した廊下へと変わり、プラットホームの端まで続く。つまり、徐々に進みながらも長時間待たされたお客様が狭いトンネルを抜けたとたん、頭上でジェットが舞う広大な空間に身を包まれることになる。これで、ジェット搭乗への期待が一気に高まる、という演出なのだ。このトンネルの出口に立つのが、『トンネル出口係』である。その役割は、プラットホームが人で溢れ過ぎないよう、プラットホーム直前でお客様を止めたり流したりすることにある。ちなみに、ライド運営部では、待ち列の人を止めたり流したりする行為は、バトルジェットに限らず、カット・アンド・ゴーと呼ぶ。

第2のポジションは、待ち列整理係。

とても広いプラットホーム。お客様の待ち列は、幾重にも折り返すかたちで、トンネル出口から乗車寸前まで続く。この待ち列を全体的に監視するのが、この『待ち列整理係』である。ただし、何か変わった事があった時には、他のポジションからの依頼を受けて臨機応変に動き回る。いわば『遊撃手』を兼ねるわけだ。

第3のポジションは、乗車係。

お客様がジェットへと乗り込む際、ジェットに乗り込む人数と乗り込むタイミングを、カット・アンド・ゴーをしながら乗客へ指示する役割。何しろお客様は長い時間をかけてここまで辿《たど》り着く。ようやく乗車ができる!と、慌てたようにしてジェットに乗り込もうとするお客様も多い。そうしたお客様をしっかりとコントロールし、定員通りにジェットの席を埋めていく重責を負う。

第4のポジションは、降車係。

理論上、最短20秒間隔で出発可能なジェットは、コースを一周した後、次々と帰還する。乗客が降車をもたつくと、ジェットが停滞し追突防止のため本線全域でブレーキが掛かってしまう。降車係は、乗客が、降車側プラットホームへ迅速に降りてくれるよう促す。

また、帰還したジェットの中で乗客がへたり込み降車が不可能と判断した場合、当該ジェットを車庫へ引き込んだ上で、その乗客を降ろす作業を、他のポジションへ依頼する。

なにしろ、ブラックジョーク連発のベテラン芸人「コンバット死太郎」の、一時社会問題となりかけた「腰がぬけてもわしゃ知らん」というTVコマーシャルは、ちょっとやそっとで驚きはしないはずの死太郎自身の体験を元にしている。 それほどの迫力だから、一般乗客における腰抜け発生率はあなどれない。特に夏場は、園内のビアガーデンでたらふく飲んだお客様が目眩《めまい》を起こし、中には嘔吐《おうと》する人もいる。でも、嘔吐《おうと》はさておき、こうした迫力こそバトル遊園側の売りであるし、乗客側の買いであるから仕方ない。ライド運営のマニュアルもこれを前提に組み立てられている。

ちなみに、「腰が抜けたお客様がお乗りになったジェット」とか呼ぶのではポジション間の交信がまどろこしくなるため、「腰抜けジェット」と略す取り決めとなっている。

第5のポジションは、退出誘導係である。

降車した乗客がスムーズに出口方向の通路へ流れるように誘導するだけの簡単なポジションだ。閉園間際とか、真冬の最も寒い頃とか、極端にお客様が少ない時間帯や時季は、このポジションは省略され、『降車係』が兼務する。

第6のポジションは、発車係。

プラットホームの降車側の中央には発車操作盤がある。『発車係』は、この操作盤の前に、降車・乗車の両方を見渡す向きで立ち、ジェットの位置移動を操作する。帰還したジェットから乗客が全員降り空車となった後、それを『乗車係』が立つ辺りまで移動させる操作を行う。満車になったら、それを出発待機区画へと送り込む操作を行う。

第7のポジションは、最終確認係。プラットホーム周辺最後のポジションだ。

ジェットには動力がない。リフトで一番高い位置まで吊り上げられ、後は重力だけで走っていく。『発車係』によって出発待機区画へと送り込まれた乗車済みジェットはいったん出発待機区画で停止し、前方のリフトが空き次第、自動的にリフトへと送り込まれる。『最終確認係』は、この出発待機区画に立ち、一時停止している乗車済みジェットを、側面から見守る。ジェットの進行方向からすれば、左脇だ。そして、何かしらの異常、たとえば乗客用の安全バーが降りていなかったり、ぎりぎりになって出発を取りやめたいと乗客が申し出たりした場合、その対応をする。

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