セクション3 ヒューマンエラー・概論 -1『概念論』コース000002

セクション3「ヒューマンエラーと分けるべき『悪意のある過ち』」


3-1「『悪意のある過ち』とは?」

前述のようにヒューマンエラーを狭義に定義することにより、真っ先にヒューマンエラーに該当しなくなるのが、「悪意のある過ち」である。

ここで言う「悪意のある過ち」とは、その結果深刻な事態が起きることを予見しているにもかかわらず、誰かが被害に遭うことを期待し、問題を放置する行為である。※1


3-2「『悪意のある過ち』のたとえ」

「悪意のある過ち」について、たとえで説明すると、次のようなケースがあれば、それは当コースで言うところの「悪意のある過ちが原因」の事故に該当する。

ケースA:人が行き交いする施設に勤務する職員が、施設の不具合を発見し、そのまま放置すれば事故・災害が起きる可能性があると思い、もし事故・災害が起きたなら誰かしらが負傷すると予想し、誰かが負傷したら愉快だろう・面白いだろうと思い、その実現を期待して、不具合を直す担当者・担当部署への報告をせず、その結果として誰かが負傷してしまう。

これは明らかに悪質な犯罪である。※2

しかし、計画的な傷害事件とも言えず、「深刻な事態を予見していなかった」「誰かに被害を与えるつもりはなかった」「真の原因は自分にはなく施設の不具合にあった」などと自己すら欺くことが容易である。関与は発覚しづらく、たとえ発覚してもあたかも過失のように振る舞うことが可能である。 それにより、「悪意のある過ち」でもあるにもかかわらず、ヒューマンエラーが原因の事故・災害としてカウントされてしまう可能性がある。※3


3-3「『悪意のある過ち』を『ヒューマンエラー』としてカウントするな」

もし、「悪意のある過ちが原因」の事故・災害を、「ヒューマンエラーが原因」の事故・災害としてカウントしてしまうと、適切な再発防止対策を打つことができなくなる。※4
だから、私たちは、「悪意のある過ち」と「ヒューマンエラー」を別の概念とした上で、「悪意のある過ち」を見抜く能力を磨く必要がある。

もちろん、警察が捜査に乗り出した後は警察に任せなくてはならない。が、「警察が乗り出さない場合においては、悪意のある過ちが発生している可能性がゼロ」とは言えない。だから、やはり私たちは、「悪意のある過ち」を見抜く能力を磨くべきである。そして、悪質な犯罪として告発しなければならない。大変残念だが、この考えは、安全管理上、捨てるわけにはいかない。


※1:
こういう人間が現実に存在することを実証した上での話ではない。私が想像するに、その可能性はありとしたわけである。
こうした私の想像のほうが、よほど人間に対する悪意に基づくという非難が起きるかもしれないが、安全管理上は、こうした仮想人物・仮想事態も前提として防止策を講じておくべきである。楽観は禁物だと思う。しかし、安全管理を語る立場から離れ、いわば宗教的な精神に立つならば、こうした人物がいないと信じたいものである。が、残念ながらやはり現実はそうはいかないと思う。

※2:
もちろん、ヒューマンエラーが原因の事故・災害であっても、結果が重大であれば、業務上過失致死傷との判決が出る可能性はあり、そうなれば犯罪扱いとなるわけだが、「悪意のある過ち」のように「明らかに悪質な犯罪だ」と表現することはできない。

※3:
この可能性についても、私の想像によるもので、実証したわけではない。

※4:
前セクション2-5の記述を理由に、「悪意のある過ち」をヒューマンファクター(人的要因)としてカウントするのは一向に構わない。


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