セクション3 「安全管理/危機管理・概論 -1『概念論』」 コース000100 

セクション3
「『安全管理』『危機管理』の定義と相違点・共通点」


3-1「『安全管理』と『危機管理』の定義」

前セクションにて「安全」「危機」「管理」それぞれ単体の定義を終えたので、これらを組み合わせた概念となる「安全管理」「危機管理」をそれぞれ定義する。

●当コースにおける「安全管理」の定義
当事者が安心できる状態を確保するために関係要素を制御する行為。

●当コースにおける「危機管理」の定義
安全を脅かす事象があっても・事態となっても、その悪影響が無いようにするため関係要素を制御する行為。(α)
または、
安全確保が不可能な事態による悪影響を少なくするため関係要素を制御する行為。(β)
または、双方。(α or/and  β)

なお、ここでいう「その悪影響が無い」とは、「悪影響が全く無い」つまり悪影響ゼロという意味である。
また、「安全確保が不可能な事態」とは、「もはや安全確保が不可能となってしまった事態」を意味する。「安全確保が不可能であろう」と予想した時点のことではない。※1


3-2「『安全管理』と『危機管理』の相違点(違い)」

前項の定義から分かるように、「安全管理」においては安全確保に専念する。

それに対し、「危機管理」においては安全確保に専念するわけではなく、安全確保が不可能な事態には、その悪影響を少なくする行為を行う。※2

これが「安全管理」と「危機管理」の相違点(違い)である。(次々項以降に、たとえを紹介します)


3-3「『安全管理』と『危機管理』の共通点」

「安全管理」と「危機管理」の共通点は、「安全を脅かす事象があっても・事態となっても悪影響が無いようにする」という点にある。

この点は、前述の「危機管理」の定義文には記したが、「安全管理」のそれにはないので、一見、分かりにくいかもしれない。しかし、安全を確保するためには、たとえ安全を脅かす事象があっても・事態となっても、その悪影響が無いようにするための仕組み・仕掛け等を設置する必要がある。
だから、「安全を脅かす事象があっても・事態となっても悪影響が無いようにする」という点が「安全管理」の「危機管理」の共通点となる。(次項以降に、たとえを紹介します)


3-4「『安全管理』と『危機管理』の相違点(違い)・共通点のたとえ」

上述だけでは抽象的すぎて理解が進まないだろう。ついては、以下、たとえを出す。

或る人(個人)が水害を恐れ、河川の全くない地区に住居を構えたとする。(この類の行為を、以下、便宜的にカテゴリーのaと呼ぶ)
このaは、危険な場所にそもそも近づかないことで安全を確保したことになる。つまり自らの安全管理をしたわけである。そして、そもそも危険に近づかないのだから、水害という点において、危機管理の必要はない。
なお、このaを便宜的に、「純・安全管理」と呼ぶ。

或る人(個人)が、河川の付近であるものの、護岸が高く頑丈なことを確認して、住居を構えたとする。(この類の行為を、以下、便宜的にカテゴリーのbと呼ぶ)
このbは、大雨で水位が上がるという安全を脅かす事象が発生しても、高くて頑丈な護岸により、水があふれ出すという悪影響は無いとの前提に立ち、安全を確保したことになる。つまり自らの安全管理をしたわけである。
そして、安全を脅かす事態による悪影響が無いようにしているという点で、危機管理(自治体による代理行為としての危機管理)となっている。
なお、このbを便宜的に、「安全管理上の危機管理/危機管理上の安全管理」と記す。

或る人(個人)が、河川の付近に住居を構えたところ、大雨で護岸が決壊し家屋が浸水し始めたため、全身ずぶ濡れになりながらも身体一つで避難したとする。(この類の行為を、以下、便宜的にカテゴリーのcと呼ぶ)
このcは、ずぶ濡れになったことが原因で風邪等の病気を引き起こしたとすれば悪影響があったことになるが、避難が遅れ濁流に呑まれて命を失ってしまうよりも悪影響の度合いは少なく、この点において危機管理をしたことになる。
しかし、護岸決壊によって安全確保がもはや不可能となった時点で、安全管理の枠から外れている。
なお、このcを便宜的に、「純・危機管理」と呼ぶ。

上記のたとえを整理し抽象化すると、
・そもそも危うきに近寄らないのが「a.純・安全管理」
・危機があっても安全を確保するのが「b.安全管理上の危機管理/危機管理上の安全管理」
・危機による悪影響を少なくするのが「c.純・危機管理」
となる。


3-5「水害対策のたとえ」

前項のたとえは、個人の観点からのたとえであった。当コースは組織運営学科のコースゆえ、むしろ組織の観点からのたとえに、以下、力点を置く。

まずは前項と同様に水害をテーマにすると、
水害に責任を持つ公共機関(国家や自治体)が、増水の際必ず浸水する地区に住居を構えることを禁ずる措置をとったとする。
この場合、この地区の住宅水害という点において、そもそも危うきに近寄らずとなり、公共機関は「a.純・安全管理」をしたことになる。

水害に責任を持つ公共機関が、増水になっても水が溢れ出ないよう、高くて頑丈な護岸を設けたとする。
この場合、この地区の水害という点において、増水という危機の悪影響が無いように、護岸という仕掛けをしたことにより、公共機関は「b.安全管理上の危機管理/危機管理上の安全管理」をしたことになる。

水害に責任を持つ公共機関が、護岸が決壊したことを想定して、危険地区から住民を救出する手順を定め演習を行い、実際に護岸が決壊した時に、多くの住民を救出することができたとする。
この場合、護岸決壊という危機による悪影響を少なくしたという点において、公共機関は「c.純・危機管理」をしたことになる。


3-6「株式公開のたとえ」

或る会社が株式の公開を検討した結果、敵対的M&Aの可能性を経営危機とみなしそれを忌避し、公開しないことを決定したとする。
この場合、そもそも公開しないのだから危機は発生しえず、会社は「a.純・安全管理」をしたことになる。

或る会社が株式の公開を検討した結果、敵対的M&Aは経営危機とであるとしたが、万全な防衛策を前提に、公開したとする。
この場合、その防衛策が本当に万全ならば、会社は「b.安全管理上の危機管理/危機管理上の安全管理」をしたことになる。

株式を公開した会社が、敵対的M&Aの攻勢にさらされ、相手との交渉の結果、ある程度の損失はあったものの事態を収束でき、M&Aを回避したとする。
この場合、会社は「c.純・危機管理」をしたことになる。


3-7「食品衛生のたとえ」

或る食品会社が、今までは加熱食品しか製造販売していなかったが、非加熱 食品への参入を検討し、その結果、衛生管理上の危険性が高いと判断し、参入しないことを決定したとする。
この場合、そもそも参入しないのだから非加熱食品に関する危機は発生しえず、会社は「a.純・安全管理」をしたことになる。

或る食品会社が、今までは加熱食品しか製造販売していなかったが、非加熱食品への参入を検討し、その結果、万全な衛生管理体制を汲み、参入したとする。
この場合、その衛生管理体制が本当に万全ならば、会社は「b.安全管理上の危機管理/危機管理上の安全管理」をしたことになる。

非加熱食品を製造販売する食品会社が、衛生管理体制の不備により、非衛生的な製品を出荷してしまったが、迅速な製品回収により、食中毒による死者の発生は回避できたとする。
この場合、会社は「c.純・危機管理」をしたことになる。


3-8「『安全管理』と『危機管理』の概念関係」

以上のたとえも参照にし、「安全管理」と「危機管理」の概念関係を確認する。
ベン図(右欄掲載)で表現すれば分かるように、aにおいては安全管理のみ、bにおいては安全管理と危機管理が重なり、cにおいては危機管理のみ、となり、したがって両者の概念関係は「交差関係」となる。


※1:
「安全確保が不可能であろう」と予想した時点では、安全管理上も危機管理上も、まず危機を回避する努力(つまり悪影響ゼロへの努力)をすべきである。が、危機管理上は、それに加えて、「もはや安全確保が不可能となってしまった事態」を想定し、悪影響を少なくするための準備をしておく必要がある。

※2:
危機管理において「(安全確保が不可能な事態による)悪影響を少なくする行為を行う」ということには、前述※1でも述べた「『もはや安全確保が不可能となってしまった事態』を想定し、悪影響を少なくするための準備をしておく」ことも含む。


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