セクション2 「作業手順書の作成・事例編-1(サンプル編)」 コース000032 

事例(サンプル)その1
火災対応手順書・大規模屋内集客施設編
セクション2
「大規模屋内集客施設における火災対応のポイント」

大規模屋内集客施設の火災に、円滑に対応するためのポイントは、次の通り、と私は考える。
1)とにかく人命救出を全職員の義務とし、物品の搬出は義務としない。
2)あらかじめ定めた職務ごとの対応のみならず、火災発生時点の偶然の立場も考慮した手順を定める。
3)火災の規模に関わらず発見したら一番に消防署への通報を行うこととする。
加えて、事前の備えとして次の2点がポイントとなる。
4)物品にこだわらずに済むよう十分な保険加入等その他措置を講じておく。
5)火災に関する教育を頻繁に行う。

以下、上記のポイントについてそれぞれ補足説明を行う。


2-1「とにかく人命救出を全職員の義務とし、物品の搬出は義務としない」

言うまでもなく、物より人の命のほうが大切である。しかし、大変高価な貴重品が展示・保管されている施設においては、それを搬出しようという気持ちが強くなるのも、現実である。※1 が、そうであっても、やはり人命のほうが大切だ。倉庫施設ではなく集客施設なのだから、なおさらである。ついては、物品の搬出は従業員の義務ではないこと、人命を優先した結果、貴重品を損失しても処罰の対象としないことを、規定として明文化した上、日頃より訓示しておくことが肝要である。

2-2「あらかじめ定めた職務ごとの対応のみならず、火災発生時点の偶然の立場も考慮した手順を定める」

当ポイントについては、次セクション以降にて実際に例示する火災対応手順を見て頂ければ、すぐ分ると思う。
「あらかじめ定めた職務」とは事例(サンプル)に登場する「施設総責任者」「エリア責任者」「警備隊長」が該当する。これらは、火災が起きていない平時の段階で、組織がそれぞれの職務を設定し(つまり役割分担を設定し)、その職務に就く実際の人物もあらかじめ任命してある形となる。

これらの職務に対し、事例(サンプル)の火災対応手順書に登場する「火災発見者」「避難誘導者」は、あらかじめ「○○さんは火災を発見する係に任命する」「○○さんは誘導する係に任命する」と職務設定しているわけではない。火災が発生した時点における偶然の立場から、平時に就いている職務に関係なく、職員誰もが「火災発見者」もしくは「避難誘導者」となり得るからだ。

特に「火災発見者」の立場が理解しやすいはずだが、たとえば平時の職務が経理事務であり防災の専任でなくとも、施設内で火災を発見したら、そのとたん、火災対応の行動を取る義務が発生する。「いやあ、私はふだん事務ばかりで防災とは無縁だから・・・」と、火災発見者という立場が果たすべき義務を放棄してしまうわけにはいかない。
したがって、火災対応手順においては、火災発生時点の偶然の立場も考慮した手順を、定める必要がある。
以上は今さら言うまでもないことかもしれない。しかし、特に「避難誘導者」に関しては、平時に「○○さんは誘導する係に任命する」という形で、特定の人物に役割を割り振っていることにより、割り振られていない人物が、火災発生時に役割がないかのような誤解をしてしまう事態を懸念し、あえて記述した。大規模屋内集客施設に勤務する者は皆、火災発生時には何かしらの役割を担うべきなのである。


2-3「火災の規模に関わらず発見したら一番に消防署への通報を行うこととする」

もちろん私も含めての話だが、消火活動の素人には、火災の種類や規模等を的確に判断する能力はない。そのため、「この程度なら自分で消火できるから」と通報しないまま初期消火活動に専念したりすれば、結局消火することができず火災規模は拡大してしまった、という事態になりかねない。だから、たとえ初期消火を行うとしても、発見したらまずは通報し、消火活動はその次の行動とすること。決して、「初期消火の効果を見極め、その効果がなかったことを確認した後に通報する」といった手順を設定してはならない。


2-4「物品にこだわらずに済むよう十分な保険加入やその他措置を講じておく」

ポイントの1「とにかく人命救出を全職員の義務とし、物品の搬出は義務としない」を実現するために、事前の備えとして、物にこだわらずに済むよう十分な保険加入その他措置を講じておくことが肝要である。


2-5「火災に関する教育を頻繁に行う」

ともかく火災は現場にいる人に多大な恐怖感を与える。火や煙も予想のつかない展開をする。そのため、パニックとなる確率はとても高い。パニックとなってしまっては、円滑な対応は不可能である。だから、火災に関する教育は頻繁に行ないたいものである。そうすれば、教育しないのに比べたら、多少なりとも、パニックとなる確率は下がるであろうし、対応も円滑になるであろう。
ところが、毎日長時間稼働している大規模屋内集客施設においては、手順の演習を頻繁に行うことが現実には難しい。それを承知で私はこう言っているわけで、矛盾している。
この矛盾は是非とも解決したく、現在、解決のための方策として、コンピュ-タシミュレ-ションゲーム型かカ-ドゲームのような、火災対応手順に慣れるための訓練プログラムを作成できないものか、研究面・技術面・資金面での協力者を探し始めた。こうした2Dのゲーム型教材では自らの身体を動かす訓練はできないので効果が抜群とはいえないが、せめてこのぐらいは提供したいと願う。協力して下さる方は、info@free-web-college.comまでメールをお寄せ下さい。

しかし、知識を供与する形、知識を再確認する形の教育ならば、頻繁な実施が可能である。後述もするが、「火災を発見したら、まずは通報!」と朝礼等で反復するだけでもよかろう。絶対発生させてはならない、しかし、いつ起きても対応できるようにするのが火災なだけに、毎日繰り返し教育することは何らおかしいことではない。※2


※1:
美術館・博物館等も、その利用者収容規模が大きければ、大規模屋内集客施設に該当するが、私は美術館・博物館等に限った研究をしたことがない。そのため、もし美術館・博物館等で火災が発生した場合、もちろん人命優先であるとしても貴重品の搬出をどう手順に盛り込むのか、まだ想像が及んでいない。いずれ研究してみたいと思う。

※2:
「教育」というと、集合研修しか思い浮かべない人もたまにいる。しかし、教育とは「望ましい姿になってもらうための働きかけ」(岩波書店の広辞苑を参考に記述)と定義してこそ、その有用性が最大となるのである。集合研修しか思い浮かべないのでは、もったいない。集合研修以外にも、工夫さえすれば様々な「働きかけ」が、組織としては可能なはずである。


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