セクション5 「ヒューマンエラー・概論 -3『対策論』」 コース000004 

セクション5
「『予防策』と『再発防止策』の共通点・相違点・留意点」

さて、これまで私は、「対策」について語る際、予防としての対策に関して語っているのか、再発防止の対策に関して語っているのか区分けしなかった。

なぜならば、対策という言葉を出す都度、予防策と再発防止策を分けて語ると、文章が複雑になってしまうからである。この判断の前提には、予防にしても再発防止にしても、前述(2-1)の「問題解決の共通ステップ」が同じく適用できることがあった。

しかし、実際には、予防策と再発防止策は、共通点もあれば相違点もある。この両者だけにスポットライトを当てて語るぶんには、私が懸念した複雑さとはならないので、ここで両者を分けた上で、共通点と相違点を述べる。


5-1「予防策と再発防止策の共通点」

まずは念のため、「予防」という言葉の意味を確認しておく。それは、漢字の通り、「予め防ぐ」という意味であるが、以下においては、「事故が全く起きていない段階において予め防ぐ」という意味とする。つまり、たとえ一回でも事故が起き、二度と起きないように対策を打つ場合は、予防ではなく、再発防止として位置づける。

では、予防策と再発防止策の共通点であるが、それは前述の通り、「問題解決の共通ステップ(2-1参照)」が同じく適用できること、である。

ただし、「予防策」は、まだ事故が起きていない段階での対策であるため、「問題解決の共通ステップ」で言う「問題」も「原因」も仮定による設定となる。


5-2「予防策と再発防止策の相違点」

予防策と再発防止策の相違点は、前項の但し書きにて、すでに述べた形となる。

つまり、「再発防止策」が実際に発生した事故を再び発生させないための対策であるのに対し、「予防策」のほうは、まだ一度も事故が起きていないにもかかわらず立てる対策であるため、「問題」※1も、「原因」も仮定によって設定するという点が異なる。


5-3「予防策に取り組む上でのポイント」

予防策を成功させるポイントは、積極的に「問題」を仮定し、それを「問題解決の共通ステップ」に当てはめてみることにある。※2

当コースにおいては、何かしらのヒューマンエラー・準ヒューマンエラーが「問題」に該当するので、上述の「積極的に『問題』を仮定し」という文章は、「積極的に『ヒューマンエラー(または準ヒューマンエラー)』を仮定し」という文章に置き換えることとなる。

セクション2で述べた例を用いれば、「手を引き離していないのにボタンを押し機器に手を挟む」というヒューマンエラーが発生していないにもかかわらず、「それがもし起きたら・・・」と仮定するのである。それも、その兆候※3すらないのに仮定することが、「積極的に」仮定したことになる。

では、兆候すらないのに、ヒューマンエラーを仮定することは可能だろうか?

私は可能だと思う。それも簡単に可能だと思う。なぜならば、かまわず正反対の説を仮定してしまえば良いからだ。

セクション2の例を用いてこのやり方を説明すると、、、

その機器を導入した会社は、「機器に手を挟む事故は起きない(b)」との判断をしているはずだ。※4

正確には、「安全な使用方法を教育・訓練すれば(a)」との条件付きで、「機器に手を挟む事故は起きない(b)」という判断をしているはずである。※5

なお、もしaとbの組み合わせによる判断で機器を導入しておきながも、aを実行せず、その結果、事故が起きれば、それはヒューマンエラーではなく、準ヒューマンエラーの分類に入るケースとなる。

このaとbの組み合わせによる判断に対して、反対説を仮定すれば、

「たとえ安全な使用方法を教育・訓練をしても、機器に手を挟む事故は起きる(c)」となる。

このcという反対説を仮定すると、機器を導入しようとするタイミングや、すでに導入してしまった状況下においては、「本当に事故は起きるのか?」「起きてもいないのになぜ起きると言うのか?」「今まで起きていないのだから、今後も起きるわけがない」等々、疑問や反論が続出するだろう。水を差されたと受け取り、感情的になる人まで出てこよう。そこは、「いろいろご意見はあることでしょうが、あくまでも仮説として正反対の状況についても考察してみましょうよ」と働きかけることとし、ともかく、bという判断に対して、cという反対説をかまわず仮定するのである。

そうすると、次の段階として、「では、仮定ながらもcの原因は何か?」という考えが浮かぶはずだ。それに対して、「ヒューマンエラーが原因となり得る(d)」と結論づけるのである。

この結論づけに対しても、「本当にヒューマンエラーは原因となり得るのか?」「ヒューマンエラーが発生し得ると言い切れるのか?」等々、疑問や反論が続出するであろう。が、それに対しても、「いろいろご意見はあることでしょうが、ヒューマンエラーは発生し得ると仮定してみましょうよ」と働きかけることとし、とにもかくにも、cの原因にヒューマンエラーを結びつけてしまうのである。※6

こうやって、ヒューマンエラーという原因により機器に手を挟む事故が起きると仮定した上で、問題解決の共通ステップを仮想ながらも進めていけば、セクション2で例示したような着想が引き出されるであろう。そして、それを実行に移せば、予防の対策となり、ヒューマンエラーによる事故を未然に防ぐことが可能となるだろう。


5-4「再発防止策に取り組む上でのポイント」

再発防止策は、実際に事故が発生し問題が顕在化した中で取り組むことになる。それだけに、組織にとっての優先順位も高くなり、対策担当者としても、予防策に比べれば遙かに動きやすいはずだ。

しかし、顕在化することで、社会の批判にさらされる場合もあり、その場合、事故調査に対する圧力が明に暗にかかることもあるだろう。圧力は、「早く結論を出せ」という、調査期間への圧力と、「組織が不利にならない結論を出せ」という内容への圧力の二つが主となろう。

この二つの圧力は、組織の体面をその場だけ取り繕うことには役立つかもしれない。だが、再発防止策の立案にとっては大きな障害となる。

なぜならば、調査期間が十分与えられなければ、その事故の原因を正しく掴むことができない。原因を正しく掴むことができないということは、それがヒューマンエラーか準ヒューマンエラーか、またはその他のヒューマンファクターかどうかも正しく掴むことができない。原因を正しく掴むことができなければ、問題解決の共通ステップを適用しても、適切な対策は浮上しようがない。

内容への圧力のほうは、本当の事故原因や、最も重大な原因を掴もうとする行為を否定することになるわけだから、大きな障害となることは理由を説明するまでもなかろう。

事故調査担当者・対策立案担当者としては、この二つの圧力に負けない根性・粘り強さ・勇気等の精神が必要である。そして、その場を取り繕うよりも再発防止をするほうが組織のためになると信じ、その信念を圧力をかけてくる人に示すことによって対抗する義務がある。その義務とは、組織に対しての義務と、社会に対しての義務を兼ねる。最悪の場合は、内部告発という手段に頼らざるを得ないことになるかもしれないが、精一杯、「取り繕うよりも再発防止をするほうが組織のためになるという信念」によって圧力に対抗すべきである。

この圧力に打ち勝つことさえできれば、予防策に比べれば遙かに動きやすいはずだから、その動きやすさを最大限活かし、一気に膿を出すつもりで、事故調査と対策立案に奔走しよう。

なお、この奔走の姿については、コース0000001にて、仮想ケースを基に詳細に例示してあるので、参照して頂きたい。


※1:
当コースではヒューマンエラー・準ヒューマンエラーに該当。

※2:
いわゆるシミュレーションを行うことになる。

※3:
兆候は、社会広範に浸透している「ヒヤリ・ハット報告」の制度によって掴むことができよう。もし、まだ「ヒヤリ・ハット報告」の制度を導入していないようであれば、ぜひ、導入して頂きたい。

※4:
なぜなら、事故は起きるという判断をしているならば、その機器を導入しないはずだからだ。事故は起きるという判断をしながらも導入しているとすれば、それは改善されるべき状態と言える。

※5:
この世のほとんどの機器は、安全な使用方法を守ることを大前提に設計されているはずで、私たちが生活を依存している経済社会の根幹とも言える原則である。したがって、このaとbの組み合わせによる判断で機器を導入することは、無条件には否定できない。

※6:
それでも抵抗し続ける人に対しては、「人間にヒューマンエラーは付きもの。この世から根絶することは、そもそもできない」と説明するしかない。(この断じ方の妥当性については、コース000002と000003を復習のこと)それでも抵抗し続ける人には、「では、この世から根絶できる保障は?」と、相手側に抵抗の根拠を示してもらうしか、手だてはなくなる。もしその人が根絶の保障を示せれば、それは人類最高の発見・発明である。ノーベル賞を二つ三つ受けても不足なほどの功績となろう。


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