セクション4 「ヒューマンエラー・概論 -2『原因論』」 コース000003

セクション4
「ヒューマンエラーの原因」


4-1「ヒューマンエラーに的が絞られた段階の状況とは」

さて、準ヒューマンエラーの可能性が排除され、いよいよヒューマンエラーに的を絞っての原因究明の段階になったと想定する。

まず、その段階の状況の特性を確認すると次の通りである。

・組織/業務の理念や方針に不備は無い。
・組織運営/業務運営の仕組みに不備は無い。
・健康管理体制、人事制度、教育に不備は無い。
・業務の最前線に対する組織支援が有る。
・職場の人間関係が良好な状態である。


4-2「それでも発生の可能性があるヒューマンエラー」

前項のような状況は、組織運営の状態としては、かなり理想的と言えよう。「これだけ理想的な職場で働くのであれば、ヒューマンエラーなど発生しないのでは?」と思う人もいるかもしれない。

しかし、それでも発生の可能性があるのがヒューマンエラーである。いや、正確に言えば、「それでも発生の可能性があるのがヒューマンエラーであると位置づけるように、コース000002において、ヒューマンエラーの定義を思い切り狭くした」のである。※1

では、本当に、これだけ理想的な職場であってもヒューマンエラー発生の可能性があるのだろうか?

コース000002におけるヒューマンエラーの定義を前提とすれば、yesである。

なぜならば、人間は完璧なマシン※2というわけではないからである。憂いなく仕事をしている中、何かしらの原因によって、危ないと分かっていながらも、「つい」「うっかり」過ちを犯してしてしまうことが、発生率の大小はさておき、あり得るからだ。つまり、ヒューマンエラーの可能性をゼロにすることはできないのである。※3


4-3「可能性ゼロ達成ができなくても原因究明をやめてはならない」

可能性ゼロ達成ができないならば原因究明しても仕方ないといった、all or nothing的な極端な意見を以前聴いたことがあるが、やはりヒューマンエラーの原因はあくまでも究明しなければならない。

なぜならば、原因を掴めば、

1.作業特性によっては、ヒューマンエラーがそもそも発生しようがない仕組み・仕掛け等を作ることが、工夫次第で可能となるから

2.可能性ゼロ達成ができなくても、限りなくゼロに近づける努力を継続する義務が組織にはあるから

3.作業特性によっては、ヒューマンエラーが発生しても、それによる悪影響を遮断する仕組み・仕掛け等を作ることが、工夫次第で可能となるから

4.悪影響を遮断する仕組み・仕掛け等を作ることができない場合でも、ヒューマンエラーによる悪影響を減少させる努力を継続する義務が組織にはあるから

である。

なお、2と4が同じことを言っているように誤解されるかもしれないので補足すると、2はヒューマンエラーそのものの可能性を下げる努力のことであり、それに対し4はヒューマンエラーの発生を前提にヒューマンエラーによる悪影響を下げる努力のことである。

4-4「ヒューマンエラーの原因の共通性とは」

さて、当コースは、コース000002における極めて狭い「ヒューマンエラーの概念定義」を前提に考察をしている。それゆえセクション3にて「原因の共通性を仮定することに無理はない」と述べた次第だが、正確に言えば「サンプルケースから諸原因の共通性を仮定することがしやすいように、ヒューマンエラーの概念定義を極めて狭くした」のである。

そのため、ヒューマンエラーの原因の共通性は、コース000002での定義および解説の中に、すでに仮定されているかたちとなる。

そこでコース000002へ戻り確認して頂くと手間をお掛けすることになるので、復習も兼ね、同じ内容を次項に転記する。


4-5「ヒューマンエラーの定義の復習」

【復習】コース000002概念論より

まず、ヒューマンエラーの定義であるが、それは、
「危ないと分かっていながらも、つい犯してしまう過ち、うっかり犯してしまう過ち」である。

では、ヒューマンエラーの狭義の定義文の中で述べた「つい犯してしまう過ち」「うっかり犯してしまう過ち」とはどういう過ちなのか?

それは、作業中意識は継続的に覚醒し、かつ、以前より危険性を承知し、後から振り返ってみても危険性を充分理解できるものの、その時にだけ危険性についての認識が薄れてしまい、「不安全な行動・動作に対する牽制作用」等が働かなかったり、「不安全な状態への対処」「正しい行動・動作」等をしなかったために起きる過ち、

または、

作業中意識は継続的に覚醒し、かつ、過ちを犯す以前・犯す寸前・犯す瞬間いずれの時点においても危険性を認識していたものの、その認識が、「不安全な行動・動作に対する牽制作用」等や、「不安全な状態への対処行動・動作」「正しい行動・動作」等へとつながらなかったために起きる過ち、

である。

この説明はだいたいの説明であり、両者を完璧には区分できない上、両者が混ざり合う場合もあると思う。が、理解を進めていくため、あくまでも便宜的に、以降、前者をヒューマンエラーA、後者をヒューマンエラーBと呼ぶ。

では、ヒューマンエラーAとヒューマンエラーBに共通する要素は何か?

それは、作業中意識が継続的に覚醒していることである。(眠気がさしたり呆然自失となったり等の状態ではなく、頭も冴え思考も円滑な状態)

また、Bのほうの文章には記載していないが、「以前より危険性を承知し、後から振り返ってみても危険性を充分理解できる」点も、両者の共通点である。

ヒューマンエラーAとヒューマンエラーBで異なる点は、
ヒューマンエラーAでは、その時にだけ危険性についての認識が薄れる点、

これに対しヒューマンエラーBでは、過ちを犯す以前・犯す寸前・犯す瞬間いずれの時点においても危険性を認識しているという点が異なる。

また、

ヒューマンエラーAでは、「不安全な行動・動作に対する牽制作用」等が働かなかったり、「不安全な状態への対処行動・動作」「正しい行動・動作」等をしなかったために起きるという点、

これに対しヒューマンエラーBでは、危険性の認識が、「不安全な行動・動作に対する牽制作用」等や、「不安全な状態への対処行動・動作」「正しい行動・動作」等へとつながらなかったために起きるという点、が異なる。

【復習以上】


4-6「ヒューマンエラーの原因の共通性の仮定」

さて、前項の中に、ヒューマンエラーの原因の共通性は、どのように仮定されているのか?

「共通性の仮定」は特定のケースに限定しないからこそできるため抽象的な表現となるが、それは次の通り。

ヒューマンエラーAにおいては、

その時にだけ危険性についての認識が薄れてしまい、「不安全な行動・動作に対する牽制作用」等が働かなかったり、「不安全な状態への対処」「正しい行動・動作」等をしなかったこと、である。

ヒューマンエラーBにおいては、

危険性についての認識が、「不安全な行動・動作に対する牽制作用」等や、「不安全な状態への対処行動・動作」「正しい行動・動作」等へとつながらなかったこと、である。

なお、繰り返すが、ヒューマンエラーAとヒューマンエラーBは厳密に区分できず、また、両者が混ざり合う場合もある。これをお忘れなきよう。


4-7「ヒューマンエラーの原因究明時のポイント」

前項までの記述を前提に、ヒューマンエラーの原因究明時のポイントを述べると、次の3点となる。

1.その時にだけ危険性の認識を薄れさせてしまった要因はないか、確認すること。

2.「危険性の認識」が「不安全な行動・動作に対する牽制作用」等や「不安全な状態への対処行動・動作」「正しい行動・動作」等へとつながるプロセス※4に割り込んできた要素はないか、確認すること。

3.前記2点がないことが確認されたならば、これら以外の原因を探すこと。※5

4.以上のような要因・原因が無いことが確認されたならば、ヒューマンエラーが原因で起きた事故・災害という観点をいったん脇に置き※6、準ヒューマンエラーが原因で起きた事故・災害ではないか改めて調査を行ない、そうであることが確認されたならば、その準ヒューマンエラーの原因究明へと切り替えて調査を継続すること。

上記のポイントは、原因究明のポイントであると同時に、絞り込みのステップでもある。つまり、1→2→3→4の順で絞り込みを行うことを私は勧める。

ともかくヒューマンエラーの該当範囲は極めて狭いので、特に4のステップは、重要である。「ヒューマンエラーによる事故・災害だと思い込んで原因究明を続けた結果、実はそうではなく、準ヒューマンエラーということが判明!」といった可能性は常に潜んでいるとの心構えで調査にあたるほうが、見落としがない。

ただし、セクション3でも述べたように、事故・災害の原因が、直接・間接あわせ、多数となる場合もある。したがって、原因究明時には、以上の流れで絞り込みをしつつも、多数原因の可能性も常に意識しておき、無理に単数へと絞り込むことのないようにすること。つまり、もし1が確認がされ、要因も掴めたからと言って、もはや2はないと決めつけ、究明を終了してしまうことがないようにしなければならない。これも、別の面での、原因究明時のポイントとなるので付け加えておく。

では、1や2に該当する要因、3に該当する原因とは、具体的には何か?

何度も述べたように、それはケースを特定しない限り、明らかにすることはできない。

つまり、要因・原因を具体的に述べるには、事故・災害を特定したケーススタディを行う必要がある。ケーススタディは、次期以降のコースにて行う。概論である当コースでは行わない。

とはいえ、上記のままではイメージが沸かない人もいよう。ついては、その参考用に、上記ポイントでいう要因・原因に該当する要素(事象・事態・状態・状況・場合等)の一般論的な例を、右欄のリンクをクリックした先に列挙しておく。→

また、1と2の領域は、認知心理学や行動科学などの学問において、掘り下げた研究が行われていることであろう。当コースは、組織運営学科のコースであるため、認知心理学や行動科学には踏み込まない。が、インターネットにて情報が入手できる先を確認しだい、順次、参考用に下記にリンクとして紹介します。

※下記はリンクの申し込みをしていません。もしこの私の行為によって問題が生じているサイトがあることが分かった場合には、info@free-web-college.comへご一報下さい。該当サイトはただちに削除します。もちろん先方へ通報して下さっても結構です。よろしくお願い致します。

●サイト(ページ)の紹介

http://www.medicalsaga.ne.jp/tepsys/MHFT_index.html
株式会社テプコシステムズが開設。河野龍太郎氏による「医療のヒューマンファクター工学について」と題したコンテンツですが、医療以外の業務にも応用できる点が多くあります。

http://www.ghi.tohoku-gakuin.ac.jp/~yoshida/html/HumanErorr/fr_html/1-1.html
東北学院大学教授の吉田信彌氏のサイト内にある「ヒューマンエラー」に関する一連のページ。特に5ページ目以降の「ノーマンのスリップ分類とスキーマ論」の解説は参考になります。

http://staff.aist.go.jp/kitajima.muneo/Japanese/PAPERS(J)/NIBH-News-H10.html
独立行政法人産業技術総合研究所のサイト内にあるユビキタスインタラクショングループの北島宗雄氏のページの一つ。画面左下のpdf fileをクリックして得られる情報に、視覚情報処理や知識利用過程におけるエラー発生に関する研究成果が要約紹介されています。

http://www.jal.com/ja/safety/section/jal_j/jascrm.html
日本航空のサイト内にある「安全情報」のページで、CRM(スレット&エラーマネージメント)という名称の安全管理・ヒューマンエラー対策のコンセプトが、平易で分かりやすい文章にて解説されています。


※1:
つまり私は作為的な定義をしたわけである。自然現象や物体・人体等々に関係する事柄は、作為的な定義は避けるべきだ。しかし、これら以外の事柄で、かつ、定義内容が有効に利用できる場合には、定義をする者の責任範囲内において、作為的な定義をして構わないと私は思う。

※2:
マシンであってもエラーはするし故障もする。あくまで、いわば文学的な形容として、こうした表現を使用した次第である。ご了解ください。

※3:
特定の事柄においては、可能性をゼロにすることはできよう。ここでは、特定しない場合を言う。

※4:
ここでいう「プロセス」とは、3つ以上のステップを踏むプロセスのみならず、2つのステップで達成させるプロセスのことも指す。

※5:
「これら以外の原因」は、ケースを特定しない限り有無を語ることはできないし、有るとしてもそれがどのようなものか語ることはできない。

※6:
ヒューマンエラーではないのに、ヒューマンエラーだと思い込んでいた場合には、いくらヒューマンエラーとして原因を探しても見つかることはない。


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