パート2・セクション7 「職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方」 コース000030

 パート2
「職務分掌マニュアルの作り方」 


セクション7「委任判定」


7‐1.基本的な考え方

当コースが示す職務分掌マニュアルの最も大きな特徴は、“委任判定”である。この判定を行うことにより、職務責任・職務権限は具体的となり明確になる。

作業項目一覧表を作った段階で、「その職務に就いた際に行なう作業(項目)は何か」が具体的に記述されたことになる。しかし、それだけでは、それぞれの作業の方法が、作業者に任せられているのか否か、分からない。そうした状態は、作業をする者を、作業時に、戸惑わせてしまうことになる。戸惑わせてしまうと、作業効率や意欲の低下、事故発生などにつながり、良いことは全くない。だから、作業方法を任せるのか、あらかじめ規定されている通りに行わなければならないのか、または指示を仰ぐのか、明確にすべきだ。作業ごとに“委任判定”をすれば明確になる。そして、職務責任・職務権限が明確になる。

ステップ5の名称は“委任判定”としているが、委任しない場合は“規定”するか“随時指示”しなければならないので、“委任判定”の際には、“規定”“随時指示”についても判定する。

判定は、次の通り。
a、作業の方法について、なんらかの取り決めがある
または
b、作業をするたび、然るべき人もしくは部署に、作業の方法について指示を仰ぐ
または
c、作業をする人に、作業の方法を委せる

全作業について判定した後、作業項目一覧表に記載される各作業項目の末尾に、
“規定”の記号として“a”を、
“随時指示”の記号として“ b ”を、
“委任”の記号として“c”をつける。


7‐2「規定作業」

規定作業とは、「組織があらかじめ定めた取り決めに従い行う作業」である。※1

どのような作業について、その方法を規定しておくべきか? 作業特性もさることながら、どの程度の基礎能力を持った者を職務に就かせるか、品質標準化の必要度合い、競合先の品質・サービスレベル、顧客の要求等々、様々な要素を総合的に考慮しながら判定すること。

その作業の方法をいくら規定化したくても、結果的に規定を文章化できない場合は、“随時指示作業”か“委任作業”にせざるをえない。なぜなら、「規定されているはずだがどこにも表示されていない」という矛盾した状態を生むからだ。

こうした現実を考慮すれば、規定作業の設定はやみくもに行うのではなく、一つひとつ吟味しながら、むしろ絞り込む方向で行うべきである。

その職務の全体的な印象から、「全ての作業を規定化すべき」と思ってしまう場合があるかもしれない。※2
しかし、たとえそう思えても、必ず、一つひとつの作業について規定するか否かを検討すること。その職務の全体的な印象から、「全ての作業を規定化すべき」と即断した場合は、早計な判断として自戒してもよいほどだ。全体的な印象が規定的に見える職務であっても、一つひとつ検討してみると、“随時指示”か“委任”とすべき(もしくは、そうせざるをえない)作業が、意外にも多くあるものだ。※3
また、この逆に、全体的な印象として一切委任して構わない職務があっても、規定作業とすべき作業が含まれて場合がある。ともかく、必ず、作業項目を一つひとつ点検してみて欲しい。


7‐3「随時指示作業」

随時指示作業とは、その作業を開始する都度、作業者は、管理監督者(または、その作業の方法について決定権を持つ他部署の職務)へ指示を仰ぎ、その指示に従って行う作業のことである。※4

この作業については、作業規定書は不要である。作業を実行する際になって、その時その場の状況から最も適切な方法を、管理監督者がその責任において判断し作業者へ伝え、作業者はそれにしたがって作業を行う。このため、管理監督者から指示がない段階では、作業者は、その指示を待つ状態となる。だから、管理監督者は能動的に、作業方法を考え、作業者に伝えなければならない。

もし、管理監督者がその都度指示を出すことが不可能と予想される場合には、その理由の如何に関わらず、随時指示作業としてはならない。作業が実施されないままとなってしまうからだ。こうした作業は、“規定作業”または、“委任作業”とすること。

なお、より高い職位の者が就く職務では、その決裁権限が及ぶ項目の数が多増えるので、随時指示作業の数は減っていくであろう。


7‐4「委任作業」

委任作業とは、「作業の方法を、作業者に任せる作業」のことである。この作業においても、規定手順書は不要だ。作業者の判断と責任において、最も適切な方法にて作業をしなければならない。それゆえ、管理監督者から作業方法について指示がなかろうと、参考情報がなかろうと、作業者は能動的に作業方法を考え、自ら実行しなければならない。※5 ※6

ただし、もし、いざ作業する段になって自分で判断することが不可能になってしまった場合に、管理監督者へ相談したり指示を仰ぐことは許されるものとする。だが、そうであっても、職務分掌マニュアルを作成する時点では、職務に就いた者が、自らの判断で作業を遂行できるであろう、との予想を前提として、委任作業すべきか否かの判定をして構わない。

職務分掌マニュアル発行後、作業する段になって自分で判断することが不可能になる事態が多発した場合、規定作業や随時指示作業への変更改訂を検討する。

なお、「作業の方法を、作業者に任せる」とはいえ、何かしら参考になる手順を例示したほうがいい場合もある。そのような作業については、「参考手順書」(セクション9参照)を作成する。


7‐5「プロジェクトの進捗に応じた調整」

最初に委任判定を行った段階と、その判定に従い規定手順書を作成しようとする段階で、規定作業とすべきか否かの判断が変更になる場合がある。作業項目の名称だけから規定化すべきと予想しても、いざ実際に規定書を作ってみようと具体的に検討したところ、規定することによって不都合が起きることに気づく場合があるからだ。そのような場合には、最初の判定をとりやめ、変更を行なうこと。職務分掌マニュアルの作成中におけるこのような変更は、なんら恥ずべきことではなく、むしろ真剣に検討していることの証しである。

“委任”と判定した作業が、規定手順書を作成しようとする段階になり、規定作業へと変更すべきと判断される可能性は低いと思う。むしろ、こうした変更は、職務分掌マニュアル作成中ではなく、正式発行後、改訂として行われることのほうが多いと想像する。なぜならば、委任してみたものの成果が芳しくなかったり不都合が発生し、規定や随時指示へと改訂することがしばしば発生しうると思うからだ。

ちなみに、管理職には、このような観点で、日常から作業について管理指導をし、職務分掌マニュアルの改訂をする義務がある。この行為は、業務改善と全く同じ行為となり、組織運営にとって大切な行為となる。


※1:
規定作業においては、規定されたことに関し、職務権限を持たない。が、規定されたこととはすなわち規定として文面に記述された通りのことで、文面で記述されていないことに関しては何ら規定されていないことになる。だから、その作業が規定作業であっても、その作業の目的を達成するためであれば、文面で記述されていないことを、規定内容と矛盾しない限り、実施してよい。つまり、文面で記述されていないことに関しては、職務権限を持つ。

※2:
臨時雇用の従業員に担当してもらう職務は、「全ての作業を規定化すべき」との判断をされてしまう可能性が大きい。たしかに、一般従業員が就く職務に比べれば、規定作業は多いことだろう。そうであっても、作業を一つひとつ検討してみると、規定できない作業・規定すべきでない作業が結構あるものだ。

※3:
どのような作業が、規定できない作業・規定すべきでない作業か?
たとえば、現場のその時々の状況に応じて臨機応変に立ち回る必要のある作業等が該当する。
接客販売であればお客様の動きを見て最適な対応をすべき作業等。屋外工事であれば、地形や気象条件等現場の作業環境を見て最適な方法で行うべき作業等、である。
ただし、そうした作業においても、たとえば作業が終了したら、作業結果を、その作業固有の報告書等の帳票類に記入して、然るべき部署に提出する等の取り決めがある場合には、そのことを以て「規定作業」と判定する。

※4:
随時指示作業においては、指示されたことについて、職務権限を持たない。が、指示されたこと以外については、指示内容と矛盾せず、かつ、その作業の目的を達成するためであれば、指示されていないことを実施してよい。つまり、指示されていないことに関しては、職務権限を持つ。

※5:
委任作業であっても、作業の目的を達成する義務は課される。作業の目的は、作業項目一覧表に添付される「作業概要一覧表」に記載される。
「作業の方法」は完全に任せても、「作業の目的」の放棄や変更をする権限までは付与されない。

※6:
「作業の方法」を完全に任せた以上、「作業の目的」を達成する責任を全面的に負う。もし、その責任を負えないと判断した場合には、ただちに上司に指示を仰ぐ義務が発生する。


<次のページへ>

<目次に戻る>